恥ずかしかった思い出

 人生において恥ずかしかったこと、と言われると多すぎて困る。

 

 多すぎて困る筈なのだが、一番と言われると案外難しい。最近起きた細々とした出来事――中学生みたいなESだとゼミで笑われたり、買い出しで渡された金を小遣いと勘違いして「受け取れませんよ!」と言ったり――、というのは、今思い出すだけでも死にたくなることは避けられないのだが、一番かと聞かれると首をかしげてしまう。

 

 ということで(どういうことなんだ)、今思い出せる範囲で最も古い恥ずかしかった記憶を一番としてしまおうと思う。まあ、覚えているんだから、それなりの理由があるのである。

 

 13歳の時だった。

 

 僕のフォロワーに女性はいないし、いたとしても関係ないから言ってしまうが、チン毛が生えかけてきた。

 

 皆は陰毛が生えかけたときのことを覚えているだろうか?

 

 毛が生える――特に元々生えていないところに生える、というのは、つまりは皮膚を突き破って生えてくるのである。タケノコばりに一気に突き破るのであれば気にならなかったかもしれないが、残念ながら僕の陰毛は慎重派だったらしい。

 

 中学生でありながらパイパンショタちんこを保持していた僕は、ある日突然ちんこ周りの痒みに悩まされることになった。痒い。兎に角痒い。しかも、それに合わせて皮膚にプツプツと出来物のようなものが浮いてくるではないか。完全に見た目は焼き鳥のカワである。

 

 これは病気なのではないか?

 

 親に相談するかしないか……当時は真剣に悩んでいた。

 

 そんな時だ。ぴょんっと可愛い新芽が飛び出してきたのは。

 

 おっ、と思った。

 

 病気ではなく、大人になる第一歩を踏み出したんだと気が付いたのはその時だ。

 

 一本出れば次も早い。日に日に飛び出してくる陰毛を眺めながら、僕は大人になった喜びとは別にこんなことを考え始めていた。

 

 いや、見た目悪くね?

 

 そうなのである。生えそろうまでの陰毛は見た目が非常に汚い。しかも、突き破った陰毛がさらに皮膚を刺激して相変わらず痒い。

 

 どうにかならんものか。悩みに悩んだ俺は、チン毛オールクリア作戦を敢行することにした。

 

 具体的にどうするかというと、抜くのである。ピンセットで、一本一本。

 

 やってみるとこれが案外楽しい。少しばかり痛みはあったが、黒い大地にぽっかりと肌色の穴をあけてやると気持ちがいい。学校から帰るとチン毛を抜くのが半ば日課となっていた。

 

 そして忘れもしないあの日、僕はいつものようにテレビを見ながらチン毛を抜いていた。確か、ロードショーでハリーポッターと死の秘宝が流れていて、僕はちんことハリーを交互に見やりつつ魔法の世界を堪能していた。

 

 その時である。親父が唐突に部屋を開け、あろうことか真っ先に僕のチンコに目を向けたのだ。

 

 バッと体制を整えるがもう遅い。手にはピンセット、下半身にはズレたパンツ。親父の口角が意地悪く上がった。

 

「お前、チン毛生えてきたんかwww」

 

 うろたえる僕を尻目に、親父はたっぷり30秒は高笑いしていた。手に持っているのがピンセットでよかった。魔法の杖だったら間違いなく親父を殺していただろう。

 

 この話には続きがある。ちょっとあと、母方の祖父母の家に遊びに行ったときに、親父が、

 

「○○(僕の名前)がチン毛生えてきて、しかも抜いてたんですよwww」

 

 とカミングアウトしたのだ。この一連の恥ずかしさは今でも覚えている。

 

 

 

 

 というわけで、このチン毛エピソードが恥ずかしかった想い出暫定一位となっている。30分以上かけてこんなエピソード書いてる今の方が人生全体としては恥ずかしいのだが、まあそのことは考えないようにする。